感情の縦糸 -2013年を振り返って-

怒る、ということは、全くなしにはできない。我々が生きていく中で、怒るということがなくなれば、きっとものごとを表現する意義もかなり薄れるのではないか。しかしどんなものも過ぎたるは猶及ばざるが如し。特に怒ることというのはなかなかに刺激の強い薬…

お前はうちの子ではない橋の下から拾って来た子だ

「あんたはね、豊平川の橋の下で拾ったんだよ」叔母に何度となく言われた言葉だ。本気になどしなかったし、冗談だとわかっていたので笑い話だ。 その後大人になってから、お前は橋の下で拾ったというこの言い回しが、実は全国で存在しているということを知っ…

真・女神転生4のクリア後の感想

2013年5月23日、ついに待望の女神転生シリーズの最新作が発売された。メガテンシリーズはハードごと買うというのがメガテニストの鉄の掟。ならば買おう、と意気込んでいたところに、本体同梱版も発売されるとの報。買いましょう。 待ちに待った女神転生。し…

フアン・ルルフォ『ペドロ・パラモ』

私達が小説を読む時、私がそうしたこうした、何年後にどうしたこうしたと、筋道をたてて、歴史を追うように話が展開していく。一つの町と、そこに住むある男についての話だとすれば、壮大な時間の進行とともに、男の軌跡が語られていくかもしれない。それを…

アンドレイ・タルコフスキー『惑星ソラリス』

ハリー「私は女として言うのです」 サルトリウス「君は女ではない。それ以前に人間ではない。まだわからんのか。ハリーはいない、死んだのだ。君は彼女のコピーなんだ。物理的なコピーにすぎないのさ」 ハリー「ええ、そうかもしれません。でも私は……人間に…

Rosbeg / ソニー・ラブ=タンシ『一つ半の生命』

最近はFlookのRubai収録のRosbegをF管ホイッスルで練習している。動画はフルートだけど、非常に暖かみがあって好きな曲だ。非常に簡単そうに聞こえるが、シンコペーションの多用でややリズムが取りにくくなっている。とはいえそこまで難しいわけでもない。吹…

ナーズム・ヒクメット『フェルハドとシリン』

トルコの詩人による戯曲である。トルコの文学もまた、日本人にはなじみの薄いものかもしれない。自分も初めて読む。トルコといえば自分にとって、旋舞(セマー)を行うメヴレヴィー教団が真っ先に想起される。セマーは自分に強烈なインスピレーションを与え…

アイリッシュ再考

ホイッスルを注文した。今回はBb管とA管。やはりこの音域と、F管あたりが一番自分に合っている。人間の声に近いせいもあるのだと思うが、息のコントロールがつけやすいのもあるだろう。勝手に師とあおいでいるBrian Finneganも、A管やF管はよく使っている。F…

オラシオ・カステジャーノス・モヤ『無分別』

エルサルバドル文学だ。最近知った作家ではあるが、来日経験があり、更に安部公房と大江健三郎の研究も行なっていたという、必然的な出会い。とはいえ新進気鋭というわけでもなく、それでも次世代を担う作家なのは間違いない。文学の成熟は時間がかかるのを…

時計を合わせる

最後に記事を書いた時、読書メーターがあるなら、ここに書かなくてもよいのでは? という問いが頭をよぎった。一冊読んだ、書かない、一冊読んだ、書かない、もう習慣。Twitterもそれを加速させていた。 しかし、実生活がそれらを吹き飛ばすほど色濃く、良い…

聖人か狂信者か

バルガス・リョサ『世界終末戦争』を読了した。疲れと多忙もあって、合間に時間を見つけては読んでいたりもしたのだが、かなりの時間がかかってしまった。思うに、二段組の本は人間の睡眠を誘発させる成分が含まれているに違いないと、改めて確信した。 『世…

Goldieのホイッスル

先日、ついにGoldieのホイッスルを手に入れた。アイリッシュ楽器の国内情報はかなり少ないように思う。そのなかでホイッスルは恵まれたほうではあるが、自分自身ホイッスルを検討する際に、欲しい情報がない場合が多かったので、新しいホイッスルを購入した…

ときメモ4のその後

はじめに まさか自分でも一ヶ月以上記事を書かないとは思わなかった。忙しくなったのもあるのだが、現在読んでいるバルガス・リョサの『世界終末戦争』が二段組の分厚い本で、なかなか読了することができていないという現状もある。改めて自分の読書能力の低…

ときめきメモリアル4

ここ最近の記事内容から見れば、なぜいきなりこのようなものが入ってくる余地があったのか、奇特に思う人もいるかもしれない。 実は初代ときメモは中学時代に友人から借りて経験済みで、結構熱中したものだ。しかしそれだけでは、いきなりときメモ4を掴むに…

安部公房『砂漠の思想』

エッセイがうまい作家というのはかなりいる。しかしエッセイも小説も抜群にうまい作家というのは、実は結構少ないと思う。その中にあって安部公房は、エッセイも小説も抜群にうまい。その徹底した分析思考を、作家こそ持つべきだと思う。作家は仮説(無論学…

安部公房『けものたちは故郷をめざす』

定住することというのは、安定した基盤を築くことに繋がる。誰もが安定したいし、何か自分の身分を証明できるものを持ちたいと思う。 この作品は、安部公房の満州引き揚げ体験がベースとなっている。この経験によって彼は故郷から切り離され、地に足つかぬ生…

今福龍太『クレオール主義』

「十字路になりなさい」 境界文化における自己の存在証明について葛藤したグロリア・アンサルドゥーアの言葉だ。十字路とは様々な人や文化が出会う場所……。 安部公房作品を読んでいると、まずぶつかるのが境界の問題ではないだろうか。戦後、故郷を失い地に…

菊地成孔・大谷能生『東京大学のアルバート・アイラー―東大ジャズ講義録・キーワード編』

前期は歴史を扱ってきたが、後期は「ブルース」「ダンス」「即興」「カウンター/ポストバークリー」について扱っている。なお、各キーワードの最後の講義には、それぞれの分野から専門家を招いて話を聞くという形式をとっている。 全体的に歴史編と比べて、…

菊地成孔・大谷能生『東京大学のアルバート・アイラー―東大ジャズ講義録・歴史編』

東京大学で行われたジャズの歴史についての講義録。各年代にジャズ奏者達がどのように即興演奏を繰り広げ、理論を突き詰めていったのか、その栄枯盛衰をわかりやすく説明している。 ジャズといえども、それ単体で歴史を語るのは非常に難しく、当時の世相や流…

真・女神転生デビルサマナー(PSP版)

久々に濃いメガテンをやった気がした。メガテン好きでまだやってない人は是非やるべきだと思う。引き継ぎはないけれども自分は二周目を始めた。以下小見出しを使って感想を書く。「デビサマ」は本作の呼称として使わせていただく。 世界観・シナリオ いわゆ…

武田泰淳『ひかりごけ』

武田泰淳を読むのはこれが初めてだ。きっかけは、実在の人肉食事件を題材にした表題作に惹かれてだ。 表題作を読んだ時、久々の感動に包まれた。このような作品を今まで知らないでいたのかと、自分を恥じてしまうほど。 主人公は羅臼の校長から戦時中、船が…

森見登美彦『有頂天家族』

森見登美彦、といえば阿呆な話を書く人、と思っている人も多いだろう。例外もあるが事実その通りだ。 『有頂天家族』は主人公が人間ではなく狸だ。他にも天狗なども出てくる。人間もいることはいるが、特定の人達を除けばそこにフォーカスはほとんどあたって…

中上健次『枯木灘』

血というものは難しい。確かに一族の結束は生む。しかし、その繋がり自身によって瓦解もするという危険も孕んでいる。 主人公の秋幸は非常に複雑に入り組んだ家系にいる。母親のフサは西村家の主人のもとで四人の子供を生み、浜村龍造との間に秋幸を生み、最…

福岡伸一『生物と無生物のあいだ』

以前から、分子生物学への興味は持っていた。それは昔、ある対談で安部公房が「娘に、これからはコンピュータと分子生物学を学んでおきなさい、と言っている」という話からだった。どうやら、この安部公房の炯眼は本物だったようだ。 ただ、この本に関しては…

安部公房『夢の逃亡』

安部公房の中でも、長い間空白が多かった昭和二十年代に発表された短編を集めたもの。観念的かつ思想に満ち溢れた、おせじにも読みやすいとは言えない作品から、「デンドロカカリヤ」、『壁』に至る道筋がわかってくる。 前半は、特に「牧草」なんかは安部公…

海腹川背アンロック

ようやく海腹川背・旬SE完全版の全部のおまけをアンロックした。最難関であるF57に安定の兆しが見えたので一気に追い込んだ形となった。どのみちF57のあとはF58しかないので、F57に到着すればコンティニューはし放題。F58は新ルートからも行けるので楽だった…

海腹川背の消失

海腹川背・旬SE完全版のデータが飛んだ。DSiからソフトを起動した瞬間にデータの破損を知らせる画面が……。認めたくはなかったが、そっとプラクティスを覗いてみると、今まで頑張って開拓してきたルートが全て水泡に帰した。今まで手塩にかけて育て上げてきた…

安部公房『内なる辺境』

主に正統と異端について語ったエッセイ集。とはいえ「ミリタリィ・ルック」、「異端のパスポート」、「内なる辺境」の三編しかないので、すぐに読み終わる。 人間の根源的な行動である定住と移動という観点から、正統と異端を導きだし、それを現代の国家で考…

バルガス=リョサ『緑の家』

まず読んで思うのは、その構造の複雑さだろう。複数の物語が、時間軸もばらばらに展開されていく。しかし読んでいくにつれ、それだけのことで、実はひとつひとつの物語は非常に筋の通ったわかりやすい内容だ。文章自体も平易でわかりやすい。 この物語の主人…

安部公房『死に急ぐ鯨たち』

安部公房のエッセイや対談を集めたものだが、主に扱っている内容が儀式、言語、国家、DNA、作品の在り方、他の表現方法についてなどで非常に濃い。ましてや分析狂の安部公房だ、おとなしく済むはずがない。 安部公房がオリンピックに対して嫌悪感を持ってい…