夢野久作『少女地獄』

彼女は罪人ではないのです。一個のスバラシイ創作家に過ぎないのです。単に小生と同一の性格を持った白鷹先生……貴下に非ざる貴下をウッカリ創作したために……しかも、それが真に迫った傑作であったために、彼女は直ぐにも自殺しなければならないほどの恐怖観念に脅かされつつ、その脅迫観念から救われたいばっかりに、次から次へと虚構の世界を拡大し、複雑化して行って、その中に自然と彼女自身の破局を構成して行ったのです。

少女地獄『何んでも無い』

ひとつの嘘の真実性をより強固なものにするため、さらなる嘘をつく……。そしてその嘘によって、自殺に追い込まれる。そんな話を最初に据えた短編集。表題作である少女地獄は三つに分かれていて、その一つが、引用の『何んでもない』だ。
これらは書簡体形式で、二番目の『殺人リレー』をのぞけば、結末自体は最初にわかるようになっている。
『少女地獄』三編に共通しているのは、愛憎が表裏一体となっているところ。追い出そうとか、殺してやろうとか思っていて、実際にするけど、そうありながらも、相手に愛を抱く……。『何んでも無い』は女性特有のあることが突破口になるのだけれども、解説を見るまで、遺書の日付をきちんと見ていなかった。是非読む時は日付を頭に入れて欲しい。
残りの三つの短編はまた毛色が少し違って、人としての確固たる強さを持った未亡人といったところか。文学的な面白さを考えると『童貞』が一番面白かった。特に最後の、女が倒れて死にかけている男を刑事と勘違いをして、口止め料に宝石を渡す。何気なく握った手に対して、彼女がさらなる勘違いをするあたりが面白い。
ドグラ・マグラ』を読もうか迷っている人は、この辺から読んでみればいいのではなかろうか。個人的には『何んでも無い』、『童貞』が面白くて、あとは質が落ちるかなといったところ。
どうでもいいことだけど、夢野久作は「アハアハアハ……」「オホホホホホ……」とかが多いな。

少女地獄 (角川文庫)

少女地獄 (角川文庫)