飢餓同盟

安部公房『飢餓同盟』を読了した。最初はちょっとストレートすぎるなと感じたいたのだけれども、後半を読み進むにつれ、どんどん面白くなっていった。
地震によって温泉が出なくなった、掃き溜めのような町「花園」。排他的で内輪で物事を進める(例えば町議や町長は無投票で選出されている)この町に、絶対自由を信条に、一切の権力の否定を掲げる、よそ者である「ひもじい野郎」達の組織「飢餓同盟」がある。これを創設したのは、町の二大勢力である多良根と藤野に恨みを持つ花井という男。突然この町にやってきた織木の持ってきたあるものから、花井は地熱発電所の構想を立てて、革命を起こそうとする。
安部公房にしてはいささかストレート過ぎる……俯瞰視点で見れば本当にそう思えるんだけど、終盤に進み、具体的にヘクザンを使って地下探査をする段になると、ああこれは安部公房の小説なんだと、痛切に実感した。
当初、革命のための手段に過ぎなかった地熱発電が、いつしか花井の目的に変わったあたりからの物語の加速は凄まじい。そもそも、花井がすべてを仕切って命令を出している時点で矛盾しているのに、さらに自身が憎んでいる多良根の関係者と手を結びだす。計画は大きく傾き始め、そして最後に、この物語の反復性を提示する……。
もともと実現可能性など皆無に等しいものに向かっていくという話は、努力すれば報われるとか、絶望の中の小さな希望とかいう方向に進みがちではあるけど、安部公房は最高に胸糞の悪い終わり方をさせる。しかしこの胸糞の悪さが気持ちいいのが安部公房のすごいところだなと思う。恐怖話だとか教訓ではなく、狂気的なユーモアとして成立させている。
主人公は花井だとは思うんだけど、傍観者的な位置づけとしての精神科医の森が印象に残った。最後まで花井を疑わしい目で見つつも飢餓同盟の活動に参加していたが、狂ってしまった花井にけじめをつけてあげたのも森だ。
確かに安部公房の長編としては、いささか消化不良なところがある気がしないでもない。でもこの終盤に向かう圧倒的で狂気的なパワー……それを感じられたのが本当によかった。
次は何を読もう。夢野久作ドグラ・マグラ』が候補だけど、ちょっと迷ってる。

飢餓同盟 (新潮文庫)

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