すりこぎ

小さなすりこぎが消えてから、一体どれぐらいの時間が経ったのだろう。それは、チャイを作る際に使うカルダモンの、固い表皮を砕くのに使っていたもので、これがなくては不便極まりない。
キッチン用品のコーナーを探しても大きいものしか見つからず、母親にあれはどこで買ったと尋ねてみれば、そういえばあれは弟の離乳食の時に使っていたものだから、赤ちゃん用品のコーナーだったという。半信半疑で行ってみれば、自分の場違いさになんとなく気恥ずかしさを覚えた。
あはは……ウフフ……ははは……ムォッ……けけけ……PPP……
身重の女性や家族連れの笑い声、子供のはしゃぐ声で空間は埋め尽くされていた。しかし、この歳にもなってくると、子供がいたらどうなってるんだろうという考えがたまに起こるわけで、自分が、自分がちゃんとした父親になれるのだろうかと考えることは決して不自然ではないと思う。
そう、自然体だ。何も恐れることはない。ゆっくり確実に一歩を踏み出し、目的のものを探した。しかしそれはなかった。それは中途半端な配合のスライムのように、中途半端な何かを自分の中にねっとりと残した。ご立派ご立派と、脳内議会で褒める輩もいたが、なぜ小さなすりこぎひとつを探すのに、これだけ苦労しているのだろうという空しさが残るばかり……。
自分には、なくしたすりこぎが再び見つかる予感がしていた。そうだ、新しいのを買ったところで、ふたつになるだけのことなのだ……出てくるまでは大きなすりこぎを使おう!
そう思いながらネットを探すと、すぐに小さなすりこぎは見つかった。また自分が不自然に揺れだした。