無関係な死・時の崖

無関係な死・時の崖 (新潮文庫)

無関係な死・時の崖 (新潮文庫)

安部公房『無関係な死・時の崖』を読了した。短編集なんだが、安部公房の短編というのは長編以上に難解な感じを受ける。それでも根底にある構造は大体似ているので、読みにくいのかといえばそうではない。安部公房の作品は、一種のメビウスの輪だよなあ。全部がそうだとは言わないけど。
特に面白かったのが「誘惑者」、「使者」、「賭」、「人魚伝」の4つ。
「使者」は『人間そっくり』の元となった話。この話の中で、自称火星人が押し入ってきたことをネタに講演をしようとして、題名を考えるんだけど、最初に「偽火星人」というのが浮かんで、通俗的すぎるといって没にして、次に浮かんだのが「箱の中の論理」……これも高級すぎるといって没にするのだが、この飛躍の仕方についていけなくて、しばらくここで考え込んでしまった。ここに関しては解説を読んでなるほどと思った。
「人魚伝」は安部公房に珍しい題材だなと思ったんだけど、最後まで読むとなるほど安部公房だなと思わされた。主人公と人魚の関係を見て、国家と国民の暗喩かなとも思ったけど、それはいささか安直に過ぎるだろうな。これはなかなかの名作だ。
こうやって作品を読んでいるうちに、彼の考え方を最もよく投影している作品はやっぱ『箱男』じゃないかと思えてきた。先日、『箱男』と『密会』の単行本を買ったけど、こっちには著者の言葉がついてるんだよね。これを読むとまた違った世界が見えてくるんじゃないかと思う。両方とも文庫で持っているし、読んだけどね。再読の際は単行本で読むようにしよう。
次は安部公房は一旦休んで、三島由紀夫金閣寺』を読もうと思う。前から読もうと思っていたからそろそろ手を出したい。