安部公房『カーブの向こう・ユープケッチャ』

安部公房『カーブの向こう・ユープケッチャ』を読了。短編集だけど、「カーブの向こう」は『燃えつきた地図』へ、「チチンデラ ヤパナ」は『砂の女』へ、「ユープケッチャ」は『方舟さくら丸』へと後に長編化されている。「カーブの向こう」なんかは、『燃え尽きた地図』で見られるような逆転的な要素はまだ見当たらず、記憶喪失的な内容に終始しているのが新鮮でもあった。安部公房の代表作となる『砂の女』の元である「チチンデラ ヤパナ」は、かなり意外なところでぷっつり終わる。その中でも砂に投影された世界観が見事に浮かび上がっているのだけども、『砂の女』になって見事にまとめたんだなと、改めて作品を読み直したくなった。「罰がなければ逃げる楽しみもない」は当時印象に残った一文。
面白かったのは「探偵と彼」だろうか。これを読んでいると、小中学校の人間関係を思い出して、色々と複雑な気分にもなったけど、この作品は作者の満州経験が生きているのだろうね。H市ってどう考えても奉天……。
前に読んだ『R62号の発明・鉛の卵』から見ると、なかなか一筋縄じゃいかない作品もあって、文章に目を滑らしていても何度も戻ったりもして意外と時間がかかった。
ただ全体的に、長編作品のおさらい的な感じが働いてしまい、ちょっと読む楽しみは薄いかなとは思った。現在やや手に入りにくい状態のようだ。

カーブの向う・ユープケッチャ (新潮文庫)

カーブの向う・ユープケッチャ (新潮文庫)