森見登美彦『きつねのはなし』

森見登美彦『きつねのはなし』読了。森見作品は文庫化されて再読した『夜は短し歩けよ乙女』以来だ。
その名の通り、きつねのはなし。内容的に言えば、本来の森見登美彦に見られるような、饒舌でポップな幻想とは少し違う、陰鬱な怪奇・幻想小説といったところ。人も死ぬし、血も流れるので、そういうのが苦手な人は避けるが吉。まあそこまでひどい描写はないけどね。
古道具屋でアルバイトをすることになった主人公が、変わった得意先に妙な交換話を持ちかけられる表題作が一番面白かった。自分のミスから、買い手のついた皿を割ってしまい、そこからどんどん深みにはまって、魔に魅入られていく……。物語は、ほんの一箇所にひびさえ入れば、一気に崩すことができる。
しかし全体的に見てまず思うのは、文章の単調さだろうか。どこかこなれていない感じがして、会話もぎこちないような感じのものが多い。わざと狙ったにしても、少し味がなさすぎる。4つの話の中には、同じ人物や道具が登場するが、それらが他の話との繋がりを示唆するわけでもなく、どうも宙ぶらりんな印象。中途半端に共有するよりは、全く違った話としたほうがよかったのではと思う。なので読む時も、独立した話として読んだ方が混乱はないかな。
森見登美彦のキーワードとも言ってもいい、「京都」「大学生」「おっとりした女性」「本」などはきっちり出てきているので、雰囲気は違えど森見登美彦なんだなという感覚はびんびん伝わってくる。

きつねのはなし (新潮文庫)

きつねのはなし (新潮文庫)