村のエトランジェ&あまんちゅ!

小沼丹『村のエトランジェ』

そこで僕はテニスのルウルを簡単に説明してやった。しかし、聞き終った彼女はこう云った。
 ――あらまあ、サアビスなんて、変なこと云わないでよ。あたし、サアビス上手いのよ。
 来た翌日、彼女は着ていたワンピイスを洗濯した。ところがそれ一枚しか無いらしく、薄い下着一枚の恰好で道に面した窓に腰を降し、ちょいと掠れた声で唄なんか歌ったので偶偶僕を誘いに来た悪童の一人は、このお上品な女性と近附になりたいと云って僕を挺摺らせた。
『白孔雀のいるホテル』

小沼丹『村のエトランジェ』読了。後の大寺さんのような境地にはまだいたっていない、作り込みの多い短編集。自分は日本の作家の中では問答無用で安部公房が好きなのだけども、もう一人挙げろと言われたら小沼丹を挙げるかもしれない。この二人の作品は別に似通ってはいない。
全体を通して、戦前から戦後への移り変わりがバックボーンとしてある作品が多い。しかしそれは、傍観者的な視点で実際の戦闘や被害なんかとは程遠く、表題作なんかはその様子がくっきりとみてとれる。そして、小沼丹の作品は、とにかく死が多い。しかしその死は重たく感じられない。一歩退いたところから、冷静に観察するような感じ。それは、箱庭的な世界を俯瞰的に眺めるようで、個人的にかなり好み。
そして、引用した部分のような文章。あまり自分は文体で好みを決めるのは好きではないのだけど、小沼丹の文章にはどことなくかわいらしさがある。彼に限っては、原文の旧仮名遣いで読んでみたいなと思わせられる。
読んだ中では、賭けで、ある宿屋の管理人になった主人公が、やってくる変な客の相手をしていく『白孔雀のいるホテル』と、疎開先で男女関係が原因で起こる事件を描いた『村のエトランジェ』が面白かった。
大寺さんシリーズぐらいから、「作る」ということをしない作品を発表するわけだけども、自分はとてもそれが好きで、また『懐中時計』を再読してその理由を確かめたいと思った。

天野こずえあまんちゅ!』2巻

天野こずえあまんちゅ!』の2巻を読了した。1巻では正直まだ目立った動きはなかったんだけど、ようやく動き出してきたというところ。『ARIA』もアリスが出てくるまではそこまででもなかった。『ヨコハマ買い出し紀行』も絵柄が定まってくるあたりまではエンジンがかからなかった。自分はなかなか火がつくのが遅い。
しかし話はよく見せる。『ARIA』もこれも、結構包み隠しているものがある世界観だけど、気にさせない。一人で詩人になって暴走しそうな人もしっかりストッパーがかかる。話作りとしてはクサい部類に入る彼女の作品でも、すんなり読める楽しさがしっかりあるのが凄い。
これから積極的に潜っていくだろうし、楽しみな作品だ。
やはり今回のハイライトはパンツかな。あの時の先輩の顔がたまらなくかわいいです!

村のエトランジェ (講談社文芸文庫)

村のエトランジェ (講談社文芸文庫)

あまんちゅ!(2) (BLADE COMICS)

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