安部公房『友達・棒になった男』

忠義や、忠誠も、あんまり度をすぎると、はためいわくだよ。蝦夷地に行ったら、みんな、自分が自分の殿様なんだぞ。
榎本武揚

戯曲というものは初めて読む。登場人物とおおまかな特徴が書いてあって、背景の指定と、かっこでどんなふうに読めばいいのか書いてあるセリフ。これで頭の中に情景を浮かべることができるのだろうかという不安が、やはり頭に少しちらついていた。
結果として、それらは杞憂に終わった。頭の中では舞台の上で役者がしっかりと動いてくれたので、自分でも笑えるぐらいの読書スピードで読めた。
この『友達・棒になった男』に収められている戯曲のほとんどは、元がある。『榎本武揚』だけ、元の話を読まずに入ってしまったというのがあるのだけれど、特に問題はなかった。
『友達』は一人暮らしの男のもとに、見知らぬ家族がおしかけてきて住んでしまう話。これは、本当に生活レベルで自分達に迫ってくる話で、怖いなんてレベルじゃない。ひとつの譲歩が、どんどん後戻りができない状況を作り出す恐怖。安部公房は、こういった話に説得力をもたせるのが異常にうまく、会話のさせかたも鳥肌が立つぐらいうまい。
『棒になった男』なんかは、地獄の男と女が滑稽な立ち回りを演じることで、舞台の面白さをより引き立ててる気がする。小説だとここまでやっちゃうとちょっとやりすぎ感が漂う。主人公は棒になって屋上から落ちてしまうのだけど、その操作を主人公役の人にやらせるのも面白い。
本当は安部公房スタジオの公演が見たかったけれど、今となってはかなわぬことなので、こうやって自分で見て楽しもう。もしくは、誰かが上演してくれるのを待つか……。
それと、この本の解説は良かった。安部公房作品を読むにあたって指標になるようなことをきちんと書いている。

友達・棒になった男 (新潮文庫)

友達・棒になった男 (新潮文庫)