新潮日本文学アルバム 安部公房

安部公房という作家が何を見ようとし、追い求めてきたか、その足跡を写真つきで辿っている本。
特に安部公房の文学活動の時代区分を「故郷喪失」「生きている無機物」「他者への通路」「悪夢としての都市」の四つに分類しているのはなかなか面白いし、よくまとまってると思う。これに従うならば、自分は「他者への通路」の安部公房が一番好きと言っていい(もちろんどの時期の作品も好きだ)。
作品をある程度読んでくると、作者のバックボーンを知りたくなる。作品の判断材料のひとつとして、そういう情報があると楽しめるし、意外な発見もあるものだ。もちろんなくてもその世界に飛び込むのは大いにあり。
この本のいいところは、非常に沢山の写真が収められているということ。幼少の頃からプライベートなものまで、色々な安部公房の視点を、文字と画像から知ることができる。安部公房について知らなかったことが沢山あり、非常に刺激的な内容だったし、それぞれの時期の解説もとてもよくできていたと思う。特に『終わりし道の標に』についての文は、自分が見落としていた部分を見事に補完してくれた。
今回強く思ったのは、夫人である真知さんが、やはりとてもいい仕事をしていたということだ。安部作品の装幀を手掛けるだけでなく、劇団の美術や演劇の手法などにも知恵を貸し、本当によくできた人だと思う。
安部公房はこんな素晴らしい人に支えられながら、現実を鋭く見つめていたのだなと思うと感慨深い。

安部公房 (新潮日本文学アルバム)

安部公房 (新潮日本文学アルバム)