安部公房『死に急ぐ鯨たち』

安部公房のエッセイや対談を集めたものだが、主に扱っている内容が儀式、言語、国家、DNA、作品の在り方、他の表現方法についてなどで非常に濃い。ましてや分析狂の安部公房だ、おとなしく済むはずがない。
安部公房がオリンピックに対して嫌悪感を持っていることは随分前から知っていて、この本にそれについての話が収録されているのも知っていた。でも自分はオリンピックや国際スポーツなどは割と好きなので、なんとなしに読むのを後回しにしていた感がある。
しかしやはり読んでよかったと思える。安部公房は徹底して客観的に物事を分析できる人だ。読んでいてその徹底ぶりは十分伺える。なので自分とは考え方を異にするようなことがあっても、すんなりひとつの意見として吸収できる。
儀式による集団化への懸念、国家はどうできるかなど、論じていることは非常に高度だ。しかし割にそれを感じさせないのは、安部公房のうまさといってもいい。彼はものを教えるのが非常にうまい。比喩をたくみに使い、かつ情報をそぎ落とすことなく摂取しやすい形で読者に提供してくれる。文章ではもちろんのことだが、この本の大部分は対談だ。対談でここまでのことをすらすらと論じられる安部公房の力量に驚くばかりだ。自分は恐れ多くて対談なんてまともにできる気がしない。
面白かったのは桜嫌いの話から入る「サクラは異端審問官の紋章」と各種対談。次第にでてくるインタビュアーのズレに鋭く指摘する安部公房を見ているだけで面白かった。本当に、安部公房を考える上では欠かすことのできない本だと思う。
安部公房は、小説もエッセイも秀逸だと思わされた一冊。

死に急ぐ鯨たち (新潮文庫)

死に急ぐ鯨たち (新潮文庫)