安部公房『内なる辺境』

主に正統と異端について語ったエッセイ集。とはいえ「ミリタリィ・ルック」、「異端のパスポート」、「内なる辺境」の三編しかないので、すぐに読み終わる。
人間の根源的な行動である定住と移動という観点から、正統と異端を導きだし、それを現代の国家で考える安部公房の観察眼の鋭さは相変わらず驚かされる。
自分はこの手の話はあまり詳しくはないが、反ユダヤ主義が「本当の国民(農民的定着性からくるもの)」という枠組みから外れたものを異端とした、それがユダヤ人のユダヤ的な部分であると分析した彼の判断にははっとさせられるものがあった。
安部公房の関心は、それらユダヤ人的なものが、都市的性格を孕んでいることに向けられている。これらは小説にも表れているから、本当に大きな問題として考えているのだと思う。そして、正統信仰に抗うため、現代の都市にある内なる辺境に期待をこめている。
特に都市というものに関心を持ち始めた頃の作品を理解するうえで、結構大事なことを言っているのではないか。また安部公房が影響を受けた人物が色々出てくるので、新たな枝も沢山伸びることだろう。

内なる辺境 (中公文庫)

内なる辺境 (中公文庫)