中上健次『枯木灘』

血というものは難しい。確かに一族の結束は生む。しかし、その繋がり自身によって瓦解もするという危険も孕んでいる。
主人公の秋幸は非常に複雑に入り組んだ家系にいる。母親のフサは西村家の主人のもとで四人の子供を生み、浜村龍造との間に秋幸を生み、最後に竹原家に嫁ぎ、そこにも連れ子の兄弟がいる。そして浜村龍造の元には、フサの他に二人の女の間に子供がいる。
秋幸が暮らす共同体の、性器の象徴とも言ってもいい「その男(浜村龍造)」との血の繋がりが、秋幸にとっては非常に疎ましいものでもあり、かつ実の父親としての繋がりでもあった。
秋幸は自然との一体感、ひいては路地という土地全体との一体感を得ることで、かく在るという自己を確立する。そこには血に対する強い反感があるように思える。
そして秋幸は血に対して血で復讐をするが、「その男」は秋幸が思っているような人間なのかどうか、読了した今となっても考えている。
人間誰しも大なり小なり、自分の血筋に疑問を持ち、疎ましいと思ったことは恐らくあると思う。血というものの力は現代になって間違いなく衰えてきているが、今でも我々に結束の両面性をちらつかせているように思う。

枯木灘 (河出文庫 102A)

枯木灘 (河出文庫 102A)