森見登美彦『有頂天家族』

森見登美彦、といえば阿呆な話を書く人、と思っている人も多いだろう。例外もあるが事実その通りだ。
有頂天家族』は主人公が人間ではなく狸だ。他にも天狗なども出てくる。人間もいることはいるが、特定の人達を除けばそこにフォーカスはほとんどあたっていない。
話の筋ではなく、世界観だけ考えれば、黒田硫黄大日本天狗党絵詞』と高畑勲監督『平成狸合戦ぽんぽこ』を合わせたような感じだ。実際天狗像なんかはかなり似通っているだろう。
狸にも社会がある。しかし人間のそれほど緻密で複雑ではない。彼らはちょうどよい阿呆さ加減でもって人間と天狗との三すくみの構造に組み込まれている。父親から阿呆さ加減を受け継いだ主人公は、苛立ったり、助けあったりしながら、長兄を奸計に陥れようとする叔父とその息子二人に立ち向かう。
自分が読んだ範囲では、森見登美彦の作品というのはいつもどこか抜けている。その中にあって『有頂天家族』は、構成も飽きさせることなく、うまく話を組み立てていた。ただ、やはりエンターテイメントの範疇からはみ出ることのない人だなというのも確信したのだが……。
そして森見作品の文庫を読んで思うのが、解説が解説として機能していない。今回は特にひどかった。本人にそのつもりがなくても、森見作品に中身がないような方向性に取られかねない。文庫版を買う人の中には、解説が楽しみで買う人も少なからずいるということを考えて欲しい。

有頂天家族 (幻冬舎文庫)

有頂天家族 (幻冬舎文庫)