安部公房『R62号の発明・鉛の卵』

安部公房『R62号の発明・鉛の卵』を読了した。昭和二十八年から三十二年に発表された作品を収めた短編集。
結構身構えて読んだのだけど、意外とすんなり読める作品が多くて肩透かしをくらったのだが、「棒」を読むと、キタコレという感情が沸き上がってきた。
ある男が屋上から外を眺めていると、突然男は棒になって落下する――なんていう7ページぐらいの非常に短い話だけど、この棒を拾う三人のやりとりをきくと、これはキリスト教的に見た自殺……いや自殺をそれなりに考えてみた人の末路じゃないかと初見では思った。これは自分が開高健の本を読んでいたからそう思った部分もあったから、安直な部分もある。きっとこの先読み返した時、この短い話はまた違った想像を与えてくれるのだろうなと思うと、やはり安部公房はすごい作家だなと感心する。この不安感、もやもや感がたまらない。
他に面白かったのは、脳を改造され、ロボットにされてしまう人の話である「R62号の発明」。詳しくはわからないが、ロボトミーだろうか? 「鏡と呼子」も、田舎の独特な人間関係がよく描かれていて、『飢餓同盟』を思い出した。この辺は結構、安部公房の中でも敏感な問題になっていたようで。もはや覗くという行為は、安部公房の代名詞のような気もする。冬眠箱の故障で八十万年後の世界で目が覚める「鉛の卵」なんかも、今後につながっているような部分がたくさんあって、非常に楽しく読めた。ある部分から反転させる手法は相変わらずうまい。最初の部分とか小説ならではの手法で、映像化する人は悩むだろうなと思った。
全体的に、結構ストレート(やや曲がるけど)な社会風刺だとかが多くて、かなりテンポも良く読みやすくていい短編集だと思う。「棒」や「鉛の卵」のような独特のユーモア溢れる安部公房らしい作品もしっかりあるし、難解そうだと思って尻込みしている人はこれから読んでもいいかもしれない。
年内にもう一冊はちときついかな。多分一年のまとめを書いて終わりだろうね。年明けはルイス・キャロル不思議の国のアリス』から読み始めようと思っている。ちなみに今年の始めはフランツ・カフカ『変身』だった。

R62号の発明・鉛の卵 (新潮文庫)

R62号の発明・鉛の卵 (新潮文庫)