菊地成孔・大谷能生『東京大学のアルバート・アイラー―東大ジャズ講義録・歴史編』

東京大学で行われたジャズの歴史についての講義録。各年代にジャズ奏者達がどのように即興演奏を繰り広げ、理論を突き詰めていったのか、その栄枯盛衰をわかりやすく説明している。
ジャズといえども、それ単体で歴史を語るのは非常に難しく、当時の世相や流行などが大きく反映されるので、自然アメリカ自体の歴史も混ざってくる。そして自分達が知っているバンドのデビューだったりでジャズサイドから他の部分にコネクトされた時、「なるほど」と言ってしまうのだ。
読んでいて特に感心したのはマイルス・デイヴィスだ。『Kind of Blue』がモードジャズの嚆矢となったことは知っていたが、彼の人となりやそれ以降のことは知らなかった。商業主義的でありながら、徹底した開拓精神の持ち主……彼の作品はもっと聞くべきだと再認識させられた。
前期のテストの内容が、音楽を聞いて好みの順番に並べ、批評を書くというもの。これは非常にいいテストだと思う。音楽で批評を書くというのは難しい。音楽は小説などと違って、音を扱っている。音で感じたことを言語に、かつ客観性も踏まえて書くというのは、好き嫌いを越えてものごとを捉えるということであり、簡単な作業ではない。まさに授業でやったバックグラウンドによる裏付けが必須となってくる。その上で自分の感じたことを書く。こういったことができるようになるのは、非常に大事なことだと思う。
あとがきでも言われているが、これでわかった気になってはいけない。これはきっかけであり、確認作業のひとつに過ぎない。この本から張られた枝を伝って、また新たな本なり音楽なりに辿り着くだけのことだ。手始めに、次は大抵の人が同書のキーワード編を手に取ることとなると思う。もちろん自分もその一人だ。