菊地成孔・大谷能生『東京大学のアルバート・アイラー―東大ジャズ講義録・キーワード編』

前期は歴史を扱ってきたが、後期は「ブルース」「ダンス」「即興」「カウンター/ポストバークリー」について扱っている。なお、各キーワードの最後の講義には、それぞれの分野から専門家を招いて話を聞くという形式をとっている。
全体的に歴史編と比べて、ジャズ自身が直接語られる割合は少なくなってきている。特にダンスの回などは顕著だ。なので現代のポピュラーミュージック全般のような話になってはいるのだが、本人達もそこは自覚していてやっているのだろうと思う。そして、重要なことでもあるように思う。
各分野のそれぞれの先生の話はとても刺激的で面白く、またこれからの展望について真剣に考えている人達ばかりだ。その中で特に度肝を抜かされたのが、最終講義、「カウンター/ポストバークリー」の回のゲスト講師である濱瀬元彦氏だ。彼のラングメソッドは、『憂鬱と官能を教えた学校』でも紹介されていて存在は知っていたのだが、そこまで突っ込んだことはやらなかったため、その程度に留まっていた。しかし今回、下方倍音列からブルーノートを説明された時、Cmajor上からCminorが現出した時、世の中にはこんな楽理があったのかと心底驚いた。そして、彼の音楽に対する情熱の素晴らしさが、語るにつれ認識できた。
最終講義は正直なところ、楽理をある程度学んだ人でないとかなりきつい内容だとは思う。しかし、理論の細部が理解できなかったとしても、濱瀬氏のもつエッセンスは十分に吸収できると思う。それほどまでに人間的情熱に溢れた素晴らしい人だというのが、文面からでもわかった。
歴史編、キーワード編と読んできたが、やはり読むならば2冊セットだと思う。必要な道具をインストールして、現場の人の生の声を聞き、その情熱を感じ取るのが、一番の方法ではなかろうか。